『妙法蓮華経譬諭品第三』


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科段

法説周

 第二舎利弗領解段
 第三如来述成段
 第四如来授記段
 第五四衆領解段

 

譬説周正説段

 長行

  舎利弗請問
  如来答説

 偈頌

  開譬
  合譬
  勧進流通

 

法説周

第二舎利弗領解段


爾時舎利弗。踊躍歓喜。即起合掌。瞻仰尊顔。而白仏言。今従世尊。聞此法音。心懐踊躍。得未曾有。

 爾の時に舎利弗、踊躍歓喜して即ち起って合掌し、尊顔を瞻仰して仏に白して言さく、今世尊に従いたてまつりて此の法音を聞いて、心に踊躍を懐き未曾有なることを得たり。


◎約身業

所以者何。我昔従仏。聞如是法。見諸菩薩。受記作仏。而我等不預斯事。甚自感傷。失於如来。無量知見。

 所以は何ん、我昔仏に従いたてまつりて是の如き法を聞き、諸の菩薩の受記作仏を見しかども、而も我等は斯の事に預らず。甚だ自ら如来の無量の知見を失えることを感傷しき。


◎約口業

世尊。我常独処。山林樹下。若坐若行。毎作是念。我等同入法性。云何如来。以小乗法。而見済度。是我等咎。非世尊也。

 世尊、我常に独山林樹下に処して、若しは坐若しは行じて毎に是の念を作しき、我等も同じく法性に入れり、云何ぞ如来小乗の法を以て済度せられと。是れ我等が咎なり、世尊には非ず。


◎約意業

所以者何。若我等。待説所因。成就阿耨多羅三藐三菩提。必以大乗。而得度脱。然我等。不解方便。随宜所説。初聞仏法。遇便信受。思惟取証。世尊。我従昔来。終日竟夜。毎自剋責。

 所以は何ん、若し我等、所因の阿耨多羅三藐三菩提を成就することを説きたもうを待たば、必ず大乗を以て度脱せらるることを得ん。然るに我等方便随宜の所説を解らずして、初め仏法を聞いて遇便ち信受し、思惟して証を取れり。世尊、我昔より来、終日竟夜毎に自ら剋責しき。

[解説]

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。

 


◎結成

而今従仏。聞所未聞。未曾有法。断諸疑悔。身意泰然。快得安穏。今日乃知。真是仏子。従仏口生。従法化生。得仏法分。

 而るに今仏に従いたてまつりて、未だ聞かざる所の未曾有の法を聞いて諸の疑悔を断じ、身意泰然として快く安穏なることを得たり、今日乃ち知んぬ。
 真に是れ仏子なり。仏口より生じ法化より生じて、仏法の分を得たり。


偈頌

爾時舎利弗。欲重宣此義。而説偈言

 我聞是法音 得所未曾有 心懐大歓喜 疑網皆已除

 爾の時に舎利弗、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言さく、
  我是の法音を聞いて 未曾有なる所を得て
  心に大歓喜を懐き 疑網皆已に除こりぬ


◎頌見仏喜

 昔来蒙仏教 不失於大乗 仏音甚希有 能除衆生悩
 我已得漏尽 聞亦除憂悩

  昔より来仏教を蒙って 大乗を失わず
  仏の音は甚だ希有にして 能く衆生の悩を除きたもう
  我已に漏尽を得れども 聞いて亦憂悩を除く


◎頌不聞法

 我処於山谷 或在林樹下
 若坐若経行 常思惟是事 鳴呼深自責 云何而自欺
 我等亦仏子 同入無漏法 不能於未来 演説無上道
 金色三十二 十力諸解脱 同共一法中 而不得此事
 八十種妙好 十八不共法 如是等功徳 而我皆已失
 我独経行時 見仏在大衆 名聞満十方 広饒益衆生
 自惟失此利 我為自欺誑 我常於日夜 毎思惟是事
 欲以問世尊 為失為不失 我常見世尊 称讃諸菩薩
 以是於日夜 籌量如此事 今聞仏音声 随宜而説法
 無漏難思議 令衆至道場 我本著邪見 為諸梵志師
 世尊知我心 邪抜説涅槃 我悉除邪見 於空法得証
 爾時心自謂 得至於滅度

  我山谷に処し 或は林樹の下に在って
  若しは坐し若しは経行して 常に是の事を思惟し
  鳴呼して深く自ら責めき 云何ぞ而も自ら欺ける
  我等も亦仏子にして 同じく無漏の法に入れども
  未来に於て 無上道を演説すること能わず
  金色三十二 十力諸の解脱
  同じく共に一法の中にして 此の事を得ず
  八十種の妙好 十八不共の法
  是の如き等の功徳 而も我皆已に失えり
  我独経行せし時 仏大衆に在して
  名聞十方に満ち 広く衆生を饒益したもうを見て
  自ら惟わく此の利を失えり 我為れ自ら欺誑せりと
  我常に日夜に 毎に是の事を思惟して
  以て世尊に問いたてまつらんと欲す 為めて失えりや為めて失わずや
  我常に世尊を見たてまつるに 諸の菩薩を称讃したもう
  是を以て日夜に 此の如き事を籌量しき
  今仏の音声を聞きたてまつるに 宜しきに随って法を説きたまえり
  無漏は思議し難し 衆をして道場に至らしむ
  我本邪見に著して 諸の梵志の師と為りき
  世尊我が心を知しめして 邪を抜き涅槃を説きたまいしかば
  我悉く邪見を除いて 空法に於て証を得たり
  爾の時に心自ら謂いき 滅度に至ることを得たりと


◎頌心徳妙解喜

 而今乃自覚 非是実滅度
 若得作仏時 具三十二相 天人夜叉衆 龍神等恭敬
 是時乃可謂 永尽滅無余 仏於大衆中 説我当作仏
 聞如是法音 疑悔悉已除 初聞仏所説 心中大驚疑
 将非魔作仏 悩乱我心耶 仏以種種縁 譬喩巧言説
 其心安如海 我聞疑網断 仏説過去世 無量滅度仏
 安住方便中 亦皆説是法 現在未来仏 其数無有量
 亦以諸方便 演説如是法 如今者世尊 従生及出家
 得道転法輪 亦以方便説 世尊説実道 波旬無此事
 以是我定知 非是魔作仏 我堕疑網故 謂是魔所為
 聞仏柔軟音 深遠甚微妙 演暢清浄法 我心大歓喜
 疑悔永已尽 安住実智中 我定当作仏 為天人所敬
 転無上法輪 教化諸菩薩

  而るに今乃ち自ら覚りぬ 是れ実の滅度に非ず
  若し作仏することを得ん時は 三十二相を具し
  天人夜叉衆 龍神等恭敬せん
  是の時乃ち謂うべし 永く尽滅して余なしと
  仏大衆の中に於て 我当に作仏すべしと説きたもう
  是の如き法音を聞きたてまつりて 疑悔悉く已に除こりぬ
  初め仏の所説を聞いて 心中大に驚疑しき
  将に魔の仏と作って 我が心を悩乱するに非ずやと
  仏種々の縁 譬喩を以て巧みに言説したもう
  其の心安きこと海の如し 我聞いて疑網断じぬ
  仏説きたまわく過去世の 無量の滅度の仏も
  方便の中に安住して 亦皆是の法を説きたまえり
  現在未来の仏 其の数量あること無きも
  亦諸の方便を以て 是の如き法を演説したもう
  今者の世尊の如きも 生じたまいし従り及び出家し
  得道し法輪を転じたもうまで 亦方便を以て説きたもう
  世尊は実道を説きたもう 波旬は此の事無し
  是を以て我定めて知んぬ 是れ魔の仏と作るには非ず
  我疑網に堕するが故に 是れ魔の所為と謂えり
  仏の柔軟の音 深遠に甚だ微妙にして
  清浄の法を演暢したもうを聞いて 我が心大に歓喜し
  疑悔永く已に尽き 実智の中に安住す
  我定めて当に作仏して 天人に敬わるることを為
  無上の法輪を転じて 諸の菩薩を教化すべし

 

第三如来述成段

爾時仏。告舎利弗。

 爾の時に仏、舎利弗に告げたまわく、


(昔曾教大乗)

吾今於天人。沙門。婆羅門等。大衆中説。我昔曾。於二万億仏所。為無上道故。常教化汝。汝亦長夜。随我受学。我以方便。引導汝故。生我法中。

 吾今天・人・沙門・婆羅門等の大衆の中に於て説く。我昔曾て二万億の仏の所に於て、無上道の為の故に常に汝を教化す。汝亦長夜に我に随って受学しき。我方便を以て汝を引導せしが故に、我が法の中に生ぜり。


(中間忘取小乗)

舎利弗。我昔教汝。志願仏道。汝今悉忘。而便自謂。已得滅度。

 舎利弗、我昔汝をして仏道を志願せしめき。汝今悉く忘れて、便ち自ら已に滅度を得たりと謂えり。


(今還説大乗遂本願)

我今還欲。令汝憶念。本願所行道故。為諸声聞。説是大乗経。名妙法蓮華。教菩薩法。仏所護念。

 我今還って汝をして本願所行の道を憶念せしめんと欲するが故に、諸の声聞の為に是の大乗経の妙法蓮華・教菩薩法・仏所護念と名くるを説く。

第四如来授記段


(劫数)

舎利弗。汝於未来世。過無量無辺。不可思議劫。

 舎利弗、汝未来世に於て、無量無辺不可思議劫を過ぎて、


(行因)

供養若干。千万億仏。奉持正法。具足菩薩。所行之道。

若干千万億の仏を供養し、正法を奉持し菩薩所行の道を具足して、


(得果)

当得作仏。号曰華光如来。応供。正ェ知。明行足。善逝。世間解。無上士。調御丈夫。天人師。仏。世尊。国名離垢。其土平正。清浄厳飾。安穏豊楽。天人熾盛。瑠璃為地。有八交道。黄金為縄。以界其側。其傍各有。七宝行樹。常有華果。

当に作仏することを得べし。号を華光如来・応供・正遍知・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・仏・世尊といい、国を離垢と名けん。其の土平正にして清浄厳飾に、安穏豊楽にして天人熾盛ならん。瑠璃を地となして、八つの交道あり。黄金を縄と為して以て其の側を界い、其の傍に各七宝の行樹あって、常に華果あらん。


(説法)

華光如来。亦以三乗。教化衆生。舎利弗。彼仏出時。雖非悪世。以本願故。説三乗法。

華光如来亦三乗を以て衆生を教化せん。舎利弗、彼の仏出でたまわん時は悪世に非ずと雖も、本願を以ての故に三乗の法を説かん。


(劫名)

其劫名大宝荘厳。何故名曰。大宝荘厳。其国中。以菩薩。為大宝故。

其の劫を大宝荘厳と名けん。何が故に名けて大宝荘厳という、其の国の中には菩薩を以て大宝と為すが故なり。


(衆数)

彼諸菩薩。無量無辺。不可思議。算数譬喩。所不能及。非仏智力。無能知者。若欲行時。宝華承足。此諸菩薩。非初発意。皆久植徳本。於無量百千万億仏所。浄修梵行。恒為諸仏。之所称歎。常修仏慧。具大神通。善知一切。諸法之門。質直無偽。志念堅固。如是菩薩。充満其国。

彼の諸の菩薩、無量無辺不可思議にして、算数譬喩も及ぶこと能わざる所ならん。仏の智力に非ずんば能く知る者なけん。若し行かんと欲する時は宝華足を承く。此の諸の菩薩は、初めて意を発せるに非ず。皆久しく徳本を植えて、無量百千万億の仏の所に於て浄く梵行を修し、恒に諸仏に称歎せらるることを為、常に仏慧を修し大神通を具し、善く一切諸法の門を知り、質直無偽にして志念堅固ならん。是の如き菩薩其の国に充満せん。


(寿量)

舎利弗。華光仏寿。十二小劫。除為王子。未作仏時。其国人民。寿八小劫。

舎利弗、華光仏は寿十二小劫ならん。王子と為て未だ作仏せざる時をば除く。其の国の人民は寿八小劫ならん。


(補処)

華光如来。過十二小劫。授堅満菩薩。阿耨多羅三藐三菩提記。告諸比丘。是堅満菩薩。次当作仏。号曰華足安行。多陀阿伽度。阿羅訶。三藐三仏陀。其仏国土。亦復如是。

華光如来十二小劫を過ぎて、堅満菩薩に阿耨多羅三藐三菩提の記を授け、諸の比丘に告げん、
 是の堅満菩薩次に当に作仏すべし。号を華足安行・多陀阿伽度・阿羅訶・三藐三仏陀といわん。其の仏の国土も亦復是の如くならんんと。

[解説]

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。

 


(法住)

舎利弗。是華光仏。滅度之後。正法住世。三十二小劫。像法住世。亦三十二小劫。

 舎利弗、是の華光仏の滅度の後、正法世に住すること三十二小劫、像法世に住すること亦三十二小劫ならん。


偈頌

爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言

 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、


(得果)

 舎利弗来世 成仏普智尊 号名曰華光 当度無量衆
 供養無数仏 具足菩薩行 十力等功徳 証於無上道

  舎利弗来世に 仏普智尊と成って
  号を名けて華光といわん 当に無量の衆を度すべし
  無数の仏を供養し 菩薩の行
  十力等の功徳を具足して 無上道を証せん


(劫名)

 過無量劫已 劫名大宝厳

  無量劫を過ぎ已って 劫を大宝厳と名け


(国土)

 世界名離垢 清浄無瑕穢
 以瑠璃為地 金縄界其道 七宝雑色樹 常有華果実

  世界を離垢と名けん 清浄にして瑕穢なく
  瑠璃を以て地と為し 金縄其の道を界い
  七宝雑色の樹に 常に華果実あらん


(衆数)

 彼国諸菩薩 志念常堅固 神通波羅蜜 皆已悉具足
 於無数仏所 善学菩薩道

  彼の国の諸の菩薩 志念常に堅固にして
  神通波羅蜜 皆已に悉く具足し
  無数の仏の所に於て 善く菩薩の道を学せん


(説法)

 如是等大士 華光仏所化

  是の如き等の大士 華光仏の所化ならん


(寿量)

 仏為王子時 棄国捨世栄 於最末後身 出家成仏道
 華光仏住世 寿十二小劫 其国人民衆 寿命八小劫

  仏王子たらん時 国を棄て世の栄を捨てて
  最末後の身に於て 出家して仏道を成ぜん
  華光仏世に住する 寿十二小劫
  其の国の人民衆は 寿命八小劫ならん


(法住)

 仏滅度之後 正法住於世 三十二小劫 広度諸衆生
 正法滅尽已 像法三十二 舎利広流布 天人普供養
 華光仏所為 其事皆如是 其両足聖尊 最勝無倫匹
 彼即是汝身 宜応自欣慶

  仏の滅度の後 正法世に住すること
  三十二小劫 広く諸の衆生を度せん
  正法滅尽し已って 像法三十二
  舎利広く流布して 天人普く供養せん
  華光仏の所為 其の事皆是の如し
  其の両足聖尊 最勝にして倫匹なけん
  彼即ち是れ汝が身なり 宜しく応に自ら欣慶すべし

第五四衆領解段

爾時四部衆。比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。天龍。夜叉。乾闥婆。阿修羅。迦楼羅。緊那羅。摩、羅伽等。大衆。見舎利弗。於仏前。受阿耨多羅三藐三菩提記。心大歓喜。踊躍無量。各各脱身。所著上衣。以供養仏。釈提桓因。梵天王等。無数天子。亦以天妙衣。天曼陀羅華。摩訶曼陀羅華等。供養於仏。所散天衣。住虚空中。而自廻転。諸天伎楽。百千万種。於虚空中。一事倶作。雨衆天華。而作是言。仏昔於波羅ョ。初転法輪。今乃復転。無上最大法輪。

 爾の時に四部の衆・比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷・天・龍・夜叉・乾闥婆・阿修羅・迦楼羅・緊那羅・摩・羅伽等の大衆、舎利弗の仏前に於て阿耨多羅三藐三菩提の記を受くるを見て、心大に歓喜し踊躍すること無量なり。各各に身に著たる所の上衣を脱いで以て仏に供養す。釈提桓因、梵天王等、無数の天子と、亦天の妙衣・天の曼陀羅華・摩訶曼陀羅華等を以て仏に供養す。所散の天衣、虚空の中に住して自ら廻転す。諸天の伎楽百千万種、虚空の中に於て一時に倶に作し、衆の天華を雨らして是の言を作さく、
 仏昔波羅奈に於て初めて法輪を転じ、今乃ち復無上最大の法輪を転じたもう。

[解説]

比丘(びく)・比丘尼(びくに)・優婆塞(うばそく)・優婆夷(うばい) 四衆。比丘は男性の出家した僧侶。比丘尼は出家した尼僧。優婆塞は在家の男性信徒。優婆夷は在家の女性信徒。

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。

 

爾時諸天子。欲重宣此義。而説偈言

 昔於波羅ョ 転四諦法輪 分別説諸法 五衆之生滅
 今復転最妙 無上大法輪 是法甚深奥 少有能信者
 我等従昔来 数聞世尊説 未曾聞如是 深妙之上法
 世尊説是法 我等皆随喜 大智舎利弗 今得受尊記
 我等亦如是 必当得作仏 於一切世間 最尊無有上
 仏道ッ思議 方便随宜説 我所有福業 今世若過世
 及見仏功徳 尽廻向仏道

 爾の時に諸の天子、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言さく、
  昔波羅奈に於て 四諦の法輪を転じ
  分別して諸法 五衆の生滅を説き
  今復最妙 無上の大法輪を転じたもう
  是の法は甚だ深奥にして 能く信ずる者あること少し
  我等昔より来 数世尊の説を聞きたてまつるに
  未だ曾て是の如き 深妙の上法を聞かず
  世尊是の法を説きたもうに 我等皆随喜す
  大智舎利弗 今尊記を受くることを得たり
  我等亦是の如く 必ず当に作仏して
  一切世間に於て 最尊にして上あることなきことを得べし
  仏道は思議し・し 方便して宜しきに随って説きたもう
  我が所有の福業 今世若しは過世
  及び見仏の功徳 尽く仏道に廻向す

 

譬説周正説段

長行

舎利弗請問 (舎利弗の請問)

爾時舎利弗。而白仏言。世尊。我今無復疑悔。親於仏前。阿耨多羅三藐三菩提記受得。是諸千二百。心自在者。昔住学地。仏常教化言。我法能離。生老病死。究竟涅槃。是学無学人。亦各自以離我見。及有無見等。謂得涅槃。而今於世尊前。聞所未聞。皆堕疑惑。善哉世尊。願為四衆。説其因縁。令離疑悔。

 爾の時に舎利弗、仏に白して言さく、
 世尊、我今復疑悔なし。親り仏前に於て阿耨多羅三藐三菩提の記を受くることを得たり。是の諸の千二百の心自在なる者昔学地に住せしに、仏常に教化して言わく、
 我が法は能く生・老・病・死を離れて涅槃を究竟すと。是の学無学の人亦各自ら我見及び有無の見等を離れたるを以て、涅槃を得たりと謂えり。而るに今世尊の前に於て、未だ聞かざる所を聞いて、皆疑惑に堕せり。善哉、世尊、願わくは四衆の為に其の因縁を説いて疑悔を離れしめたまえ。

[解説]

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。

 

如来答説 (如来の答説)


◎発起

爾時仏告。舎利弗。我先不言。諸仏世尊。以種種因縁。譬喩言辞。方便説法。皆為阿耨多羅三藐三菩提耶。是諸所説。皆為化菩薩故。然舎利弗。今当復以譬喩。更明此義。諸有智者。以譬喩得解。

 爾の時に仏、舎利弗に告げたまわく、
 我先に諸仏世尊の種々の因縁・譬喩・言辞を以て方便して法を説きたもうは、皆阿耨多羅三藐三菩提の為なりと言わずや。是の諸の所説は皆菩薩を化せんが為の故なり。然も舎利弗、今当に復譬喩を以て更に此の義を明すべし。諸の智あらん者、譬喩を以て解ることを得ん。

[解説]

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。

 


◎総譬

舎利弗。若国邑聚落。有大長者。其年衰邁。財富無量。多有田宅。及諸僮僕。其家広大。唯有一門。多諸人衆。一百二百。乃至五百人。止住其中。堂閣朽故。墻壁頽落。柱根腐敗。梁棟傾危。周ー倶時。ア然火起。焚焼舎宅。長者諸子。若十。二十。或至三十。在此宅中。

舎利弗、若し国邑聚落に大長者あらん。其の年衰邁して、財富無量なり。多く田宅及び諸の僮僕あり。其の家広大にして唯一門あり。諸の人衆多くして一百・二百乃至五百人其の中に止住せり。堂閣朽ち故り、墻壁頽れ落ち、柱根腐ち敗れ、梁棟傾き危し。周・して倶時に・然に火起って舎宅を焚焼す。長者の諸子、若しは十・二十・或は三十に至るまで此の宅の中にあり


◎別譬

長者。見是大火。従四面起。即大恐怖。而作是念。
我雖能於此。所焼之門。安穏得出。而諸子等。於火宅内。楽著嬉戯。不覚不知。不驚不怖。火来逼身。苦痛切己。心不厭患。無求出意。
舎利弗。是長者。作是思惟。我身手有力。当以衣イ。若以几案。従舎出之。復更思惟。
是舎唯有一門。而復狭小。諸子幼稚。未有所識。恋著戯処。或当堕落。為火所焼。我当為説。怖畏之事。此舎已焼。宜時疾出。無令為火。之所焼害。作是念已。如所思惟。具告諸子。汝等速出。
父雖憐愍。善言誘諭。而諸子等。楽著嬉戯。不肯信受。不驚不畏。了無出心。亦復不知。何者是火。何者為舎。云何為失。但東西走戯。視父而已。

爾時長者。即作是念。此舎已為。大火所焼。我及諸子。若不時出。必為所焚。我今。当設方便。令諸子等。得免斯害。
父知諸子。先心各有好所。種種珍玩。奇異之物。情必楽著。而告之言。
汝等所可。玩好。希有難得。汝若不取。後必憂悔。如此種種。羊車。鹿車。牛車。今在門外。可以遊戯。汝等於此火宅。宜速出来。随汝所欲。皆当与汝。

爾時諸子。聞父所説。珍玩之物。適其願故。心各勇鋭。互相推排。競共馳走。争出火宅。

長者是の大火の四面より起るを見て、即ち大に驚怖して是の念を作さく、我は能く此の所焼の門より安穏に出ずることを得たりと雖も、而も諸子等、火宅の内に於て嬉戲に楽著して、覚えず知らず驚かず怖じず。火来って身を逼め苦痛己を切むれども心厭患せず、出でんと求むる意なし。
 舎利弗、是の長者是の思惟を作さく、
 我身手に力あり。当に衣・を以てや若しは几案を以てや、舎より之を出すべき。
 復更に思惟すらく、
 是の舎は唯一門あり而も復狭小なり。諸子幼稚にして未だ識る所あらず、戲処に恋著せり。或は当に堕落して火に焼かるべし、我当に為に怖畏の事を説くべし。此の舎已に焼く、宜しく時に疾く出でて火に焼害せられしむることなかるべし。
 是の念を作し已って、思惟する所の如く具に諸子に告ぐ、汝等速かに出でよと。
 父憐愍して善言をもって誘諭すと雖も、而も諸子等嬉戲に楽著し肯て信受せず、驚かず畏れず、了に出ずる心なし。亦復何者か是れ火、何者か為れ舎、云何なるをか失うと為すを知らず。但東西に走り戲れて父を視て已みぬ。爾の時に長者即ち是の念を作さく、
 此の舎已に大火に焼かる。我及び諸子若し時に出でずんば必ず焚かれん。我今当に方便を設けて、諸子等をして斯の害を免るることを得せしむべし。
 父諸子の先心に各好む所ある、種々の珍玩奇異の物には情必ず楽著せんと知って、之に告げて言わく、
 汝等が玩好するところは希有にして得難し。汝若し取らずんば後に必ず憂悔せん。此の如き種々の羊車・鹿車・牛車、今門外にあり、以て遊戲すべし。汝等此の火宅より宜しく速かに出で来るべし。汝が所欲に随って皆当に汝に与うべし。
 爾の時に諸子、父の所説の珍玩の物を聞くに、其の願に適えるが故に、心各勇鋭して互に相推排し、競うて共に馳走し争うて火宅を出ず。


(等賜大車)(見諸子免難歓喜)

是時長者。見諸子等。安穏得出。皆於四衢道中。露地而坐。無復障碍。其心泰然。歓喜踊躍。時諸子等。各白父言。父先所許。玩好之具。羊車。鹿車。牛車。願時賜与。

 是の時に長者、諸子等の安穏に出ずることを得て、皆四衢道の中の露地に於て坐して復障碍無く、其の心泰然として歓喜踊躍するを見る。時に諸子等各父に白して言さく、父先に許す所の玩好の具の羊車・鹿車・牛車、願わくは時に賜与したまえ。


(等賜大白牛車)

舎利弗。爾時長者。各賜諸子。等一大車。其車高広。衆宝荘校。周ー欄楯。四面懸鈴。又於其上。張設ウ蓋。亦以珍奇雑宝。而厳飾之。宝縄絞絡。垂諸華瓔。重敷エオ。安置丹枕。駕以白牛。膚色充潔。形体・好。有大筋力。行歩平正。其疾如風。又多僕従。而侍衛之。所以者何。是大長者。財富無量。種種庫蔵。悉皆充溢。而作是念。我財物無極。不応以下劣小車。与諸子等。今此幼童。皆是吾子。愛無偏黨。我有如是。七宝大車。其数無量。応当等心。各各与之。不宜差別。所以者何。以我此物。周給一国。猶尚不匱。何況諸子。是時諸子。各乗大車。得未曾有。非本所望。

 舎利弗、爾の時に長者各諸子に等一の大車を賜う。其の車高広にして衆宝荘校し、周・して欄楯あり。四面に鈴を懸け、又其の上に於て・蓋を張り設け、亦珍奇の雑宝を以て之を厳飾し、宝縄絞絡して諸の華瓔を垂れ、・・を重ね敷き丹枕を安置せり。駕するに白牛を以てす。膚色充潔に形体・好にして大筋力あり。行歩平正にして其の疾きこと風の如し。又僕従多くして之を侍衛せり。所以は何ん、是の大長者財富無量にして、種々の庫蔵悉く皆充溢せり。而も是の念を作さく、我が財物極まりまし、下劣の小車を以て諸子等に与うべからず。今此の幼童は皆是れ吾が子なり。愛するに偏黨なし。我是の如き七宝の大車あって其の数無量なり。当に等心にして各各に之を与うべし。宜しく差別すべからず。所以は何ん、我が此の物を以て周く一国に給うとも、なお匱しからじ。何に況んや諸子をや。是の時に諸子、各大車に乗って未曾有なることを得るは、本の所望に非ざるが若し。


(長者不虚妄)

舎利弗。於汝意云何。是長者。等与諸子。珍宝大車。寧有虚妄不。舎利弗言。不也。世尊。是長者。但令諸子。得免火難。全其躯命。非為虚妄。何以故。若全身命。便為已得。玩好之具。況復方便。於彼火宅。而抜済之。世尊。若是長者。乃至不与。最小一車。猶不虚妄。何以故。是長者。先作是意。我以方便。令子得出。以是因縁。無虚妄也。何況長者。自知財富無量。欲饒益諸子。等与大車。

 舎利弗、汝が意に於て云何。是の長者、等しく諸子に珍宝の大車を与うること寧ろ虚妄ありや不や。舎利弗の言さく、不なり。世尊、是の長者、但諸子をして火難を免れ其の躯命を全うすることを得せしむとも、これ虚妄に非ず。何を以ての故に、若し身命を全うすれば便ち為れ已に玩好の具を得たるなり。況んや復方便して彼の火宅より而も之を抜済せるをや。世尊、若し是の長者、乃至最小の一車を与えざるも、猶お虚妄ならじ。何を以ての故に、是の長者先に是の意を作さく、我方便を以て子をして出ずることを得せしめんと。是の因縁を以て虚妄なし。何に況んや、長者自ら財富無量なりと知って、諸子を饒益せんと欲して等しく大車を与うるをや。


◎合総譬
(合長者)

仏告舎利弗。善哉善哉。如汝所言。舎利弗。如来亦復如是。則為一切世間之父。於諸怖畏。衰悩憂患。無明暗蔽。永尽無余。而悉成就。無量知見。力無所畏。有大神力。及智慧力。具足方便。智慧波羅蜜。

 仏、舎利弗に告げたまわく、
 善哉善哉、汝が所言の如し。舎利弗、如来も亦復是の如し。則ち為れ一切世間の父なり。諸の怖畏・衰悩・憂患・無明・暗蔽に於て永く尽くして余なし。而も悉く無量の知見・力・無所畏を成就し、大神力及び智慧力あって方便・智慧波羅蜜を具足す。


(合五百人)

大慈大悲。常無懈倦。恒求善事。利益一切。而生三界。朽故火宅。

大慈大悲常に懈倦なく、恒に善事を求めて一切を利益す。而も三界の朽ち故りたる火宅に生ずること、


(合三十子)(合火起)

為度衆生。生老病死。憂悲苦悩。愚痴暗蔽。三毒之火。教化令得。阿耨多羅三藐三菩提。

衆生の生・老・病・死・憂悲苦悩・愚痴暗蔽・三毒の火を度し、教化して阿耨多羅三藐三菩提を得せしめんが為なり。

[解説]

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。

 


◎合別譬
(合見火)

見諸衆生。為生老病死。憂悲苦悩。之所焼煮。亦以五欲財利故。受種種苦。又以貧著追求故。現受衆苦。後受地獄。畜生。餓鬼之苦。若生天上。及在人間。貧窮困苦。愛別離苦。怨憎会苦。如是等種種諸苦。衆生没在其中。歓喜遊戯。不覚不知。不驚不怖。亦不生厭。不求解脱。於此三界火宅。東西馳走。雖遭大苦。不以為患。舎利弗。仏見此已。便作此念。我為衆生之父。応抜其苦難。与無量無辺。仏智慧楽。令其遊戯。

諸の衆生を見るに生・老・病・死・憂悲苦悩に焼煮せられ、亦五欲財利を以ての故に種々の苦を受く。又貧著し追求するを以ての故に、現には衆苦を受け、後には地獄・畜生・餓鬼の苦を受く。若し天上に生れ及び人間に在っては貧窮困苦・愛別離苦・怨憎会苦、是の如き等の種々の諸苦あり。衆生其の中に没在して歓喜し遊戲して、覚えず知らず驚かず怖じず、亦厭うことを生さず解脱を求めず。此の三界の火宅に於て東西に馳走して、大苦に遭うと雖も以て患いとせず。舎利弗、仏此れを見已って便ち是の念を作さく、
 我はこれ衆生の父なり。其の苦難を抜き無量無辺の仏智慧の楽を与え、其れをして遊戲せしむべし。


(合捨用車)(合捨

舎利弗。如来復作是念。若我但以神力。及智慧力。捨於方便。為諸衆生。讃如来知見。力無所畏者。衆生不能。以是得度。所以者何。是諸衆生。未免生老病死。憂悲苦悩。而為三界。火宅所焼。何由能解。仏之智慧。舎利弗。如彼長者。雖復身手有力。而不用之。但以慇懃方便。勉済諸子。火宅之難。然後各与。珍宝大車。如来亦復如是。雖有力無所畏。而不用之。

 舎利弗、如来復是の念を作さく、
 若し我但神力及び智慧力を以て方便を捨てて、諸の衆生の為に如来の知見・力・無所畏を讃めば、衆生是れを以て得度すること能わじ。所以は何ん、是の諸の衆生未だ生・老・病・死・憂悲苦悩を免れずして、三界の火宅に焼かる。何に由ってか能く仏の智慧を解らん。舎利弗、彼の長者の復身手に力ありと雖も而も之を用いず、


(合用車)

但以智慧方便。於三界火宅。抜済衆生。為説三乗。声聞。辟支仏。仏乗。而作是言。汝等莫得。楽住三界火宅。勿貧麁弊。色声香味触也。若貧著生愛。則為所焼。汝等。速出三界。当得三乗。声聞。辟支仏。仏乗。我今為汝。保任此事。終不虚也。汝等但当。勤修精進。如来以是方便。誘進衆生。復作是言。汝等当知。此三乗法。皆是聖所称歎。自在無繋。無所依求。乗是三乗。以無漏根力。覚道禅定。解脱。三昧等。而自娯楽。便得無量。安穏快楽。舎利弗。若有衆生。内有智性。従仏世尊。聞法信受。慇懃精進。欲速出三界。自求涅槃。是名声聞乗。如彼諸子。為求羊車。出於火宅。若有衆生。従仏世尊。聞法信受。慇懃精進。求自然慧。楽独善寂。深知諸法因縁。是名辟支仏乗。如彼諸子。為求鹿車。出於火宅。若有衆生。従仏世尊。聞法信受。勤修精進。求一切智。仏智。自然智。無師智。如来知見。力無所畏。愍念安楽。無量衆生。利益天人。度脱一切。是名大乗。菩薩求此乗故。名為摩訶薩。如彼諸子。為求牛車。出於火宅。

但慇懃の方便を以て諸子の火宅の難を勉済して、然うして後に各珍宝の大車を与うるが如く、如来も亦復是の如し。力・無所畏ありと雖も而も之を用いず、但智慧方便を以て三界の火宅より衆生を抜済せんとして、為に三乗の声聞・辟支仏・仏乗を説く。而も是の言を作さく、
 汝等楽って三界の火宅に住することを得ること莫れ。麁弊の色・声・香・味・触を貧ること勿れ。若し貧著して愛を生ぜば則ち為れ焼かれなん。汝等速かに三界を出でて、当に三乗の声聞・辟支仏・仏乗を得べし。我今汝が為に此の事を保任す、終に虚しからじ。汝等但当に勤修精進すべし。
 如来是の方便を以て衆生を誘進す。復是の言を作さく、汝等当に知るべし、此の三乗の法は皆是れ聖の称歎したもう所なり。自在無繋にして依求する所なし。是の三乗に乗じて、無漏の根・力・覚・道・禅定・解脱・三昧等を以て自ら娯楽して、便ち無量の安穏快楽を得べし。舎利弗、若し衆生あり、内に智性あって、仏世尊に従いたてまつりて法を聞いて信受し、慇懃に精進して速かに三界を出でんと欲して自ら涅槃を求むる、是れを声聞乗と名く。彼の諸子の羊車を求むるを以て火宅を出ずるが如し。若し衆生あり、仏世尊に従いたてまつりて法を聞いて信受し、慇懃に精進して自然慧を求め、独善寂を楽い深く諸法の因縁を知る、是れを辟支仏乗と名く。彼の諸子の鹿車を求むるを為て火宅を出ずるが如し。若し衆生あり、仏世尊に従いたてまつりて法を聞いて信受し、勤修精進して一切智・仏智・自然智・無師智・如来の知見・力・無所畏を求め、無量の衆生を愍念安楽し、天人を利益し一切を度脱する、是れを大乗と名く。菩薩此の乗を求むるが故に名けて摩訶薩とす。彼の諸子の牛車を求むるを為て火宅を出ずるが如し。


◎合等賜大車

舎利弗。如彼長者。見諸子等。安穏得出火宅。到無畏処。自惟財富無量。等以大車。而賜諸子。如来亦復如是。為一切衆生之父。若見無量。億千衆生。以仏教門。出三界苦。怖畏険道。得涅槃楽。如来爾時。便作是念。我有無量無辺智慧。力無畏等。諸仏法蔵。是諸衆生。皆是我子。等与大乗。不令有人。独得滅度。皆以如来滅度。而滅度之。是諸衆生。脱三界者。悉与諸仏。禅定解脱等。娯楽之具。皆是一相一種。聖所称歎。能生浄妙。第一之楽。

舎利弗、彼の長者の、諸子等の安穏に火宅を出ずることを得て無畏の処に到るを見て、自ら財富無量なることを惟うて、等しく大車を以て諸子に賜えるが如く、如来も亦復是の如し。これ一切衆生の父なり。若し無量億千の衆生の、仏教の門を以て三界の苦怖畏の険道を出でて、涅槃の楽を得るを見ては、如来爾の時に便ち是の念を作さく、我無量無辺の智慧・力・無畏等の諸仏の法蔵あり。是の諸の衆生は皆是れ我が子なり。等しく大乗を与うべし。人として独滅度を得ることあらしめじ。皆如来の滅度を以て之を滅度せん。
 是の諸の衆生の三界を脱れたる者には、悉く諸仏の禅定・解脱等の娯楽の具を与う。皆是れ一相一種にして、聖の称歎したもう所なり。能く浄妙第一の楽を生ず。


(合長者無虚妄)

舎利弗。如彼長者。初以三車。誘引諸子。然後但与大車。宝物荘厳。安穏第一。然彼長者。無有虚妄之咎。如来亦復如是。無有虚妄。初説三乗。引導衆生。然後但以大乗。而度脱之。何以故。如来。有無量智慧。力無所畏。諸法之蔵。能与一切衆生。大乗之法。但不尽能受。舎利弗。以是因縁。当知諸仏。方便力故。於一仏乗。分別三説。

 舎利弗、彼の長者の初め三車を以て諸子を誘引し、然して後に但大車の宝物荘厳し安穏第一なることを与うるに、然も彼の長者虚妄の咎なきが如く、如来も亦復是の如し。虚妄あることなし。初め三乗を説いて衆生を引導し、然して後に但大乗を以て之を度脱す。何を以ての故に、如来は無量の智慧・力・無所畏・諸法の蔵あって、能く一切衆生に大乗の法を与う。但尽くして能く受けず。舎利弗、是の因縁を以て当に知るべし、諸仏方便力の故に、一仏乗に於て分別して三と説きたもう。

偈頌

開譬

仏欲重宣此義。而説偈言

 仏重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、


◎長者 ◎火宅

 譬如長者 有一大宅 其宅久故 而復頓弊
 堂舎高危 柱根摧朽 梁棟傾斜 基陛頽毀
 墻壁カキ 泥塗褫落 覆苫乱墜 椽梠差脱
 周障屈曲 雑穢充ェ 

  譬えば長者 一の大宅あらん
  其の宅久しく故りて 復頓弊し
  堂舎高く危く 柱根摧け朽ち
  梁棟傾き斜み 基陛頽れ毀れ
  墻壁・れ・け 泥塗褫け落ち
  覆苫乱れ墜ち 椽梠差い脱け
  周障屈曲して 雑穢充遍せり


◎五百人

有五百人 止住其中

  五百人あって 其の中に止住す


◎欲界火起
(所焼之類)(五鈍使禽獣)

 鵄梟G鷲 烏鵲鳩鴿 ク蛇蝮蠍 蜈蚣蚰蜒
 守宮百足 鼬貍ケ鼠 諸悪虫輩 交横馳走
 屎尿臭処 不浄流溢 コサ諸虫 而集其上
 狐狼野干 咀嚼践シ ス齧死屍 骨肉狼藉
 由是群狗 競来搏撮 飢羸セ惶 処処食求
 闘諍ソ掣 啀タチ吠

  鵄梟・鷲 烏鵲鳩鴿
  ・蛇蝮蠍 蜈蚣蚰蜒
  守宮百足 鼬貍・鼠
  諸の悪虫の輩 交横馳走す
  屎尿の臭き処 不浄流れ溢ち
  ・・諸虫 而も其の上に集まり
  狐狼野干 咀嚼践・し
  死屍を・齧して 骨肉狼藉し
  是れに由って群狗 競い来って搏撮し
  飢羸・惶して 処処に食を求む
  闘諍・掣し 啀・・吠す


(五利使鬼神)

 其舎恐怖 変状如是
 処処皆有 魑魅魍魎 夜叉悪鬼 食ツ人肉
 毒虫之属 諸悪禽獣 孚乳産生 各自蔵護
 夜叉競来 争取食之 食之既飽 悪心転熾
 闘諍之声 甚可怖畏 鳩槃荼鬼 蹲踞土テ
 或時離地 一尺二尺 往返遊行 縦逸嬉戯
 捉狗両足 撲令失声 以脚加頚 怖狗自楽
 復有諸鬼 其身長大 裸形黒痩 常住其中
 発大悪声 叫呼求食 復有諸鬼 其咽如針
 復有諸鬼 首如牛頭 或食人肉 或復ツ狗
 頭髪蓬乱 残害兇険 飢渇所逼 叫喚馳走

  其の舎の恐怖 変ずる状是の如し
  処処に皆 魑魅魍魎
  夜叉悪鬼あり 人肉
  毒虫の属を食・す 諸の悪禽獣
  孚乳産生して 各自ら蔵し護る
  夜叉競い来り 争い取って之を食す
  之を食して既に飽きぬれば 悪心転た熾んにして
  闘諍の声 甚だ怖畏すべし
  鳩槃荼鬼 土・に蹲踞せり
  或時は地を離るること 一尺二尺
  往返遊行し 縦逸に嬉戲す
  狗の両足を捉って 撲って声を失わしめ
  脚を以て頚に加えて 狗を怖して自ら楽む
  復諸鬼あり 其の身長大に
  裸形黒痩にして 常に其の中に住せり
  大悪声を発して 叫び呼んで食を求む
  復諸鬼あり 其の咽針の如し
  復諸鬼あり 首牛頭の如し
  或は人の肉を食い 或は復狗を・う
  頭髪蓬乱し 残害兇険なり
  飢渇に逼まられて 叫喚馳走す


(総結利鈍)

 夜叉餓鬼 諸悪鳥獣 飢急四向 ト看窓ナ
 如是諸難 恐畏無量

  夜叉餓鬼 諸の悪鳥獣
  飢急にして四に向い 窓・を・い看る
  是の如き諸難 恐畏無量なり


(火起之由)

 是朽故宅 属于一人 其人近出 未久之間

  是の朽ち故りたる宅は 一人に属せり
  其の人近く出でて 未だ久しからざるの間


(火起之勢)

 於後宅舎 忽然火起 四面一時 其焔倶熾
 棟梁椽柱 爆声震裂 摧折堕落 墻壁崩倒

  後に宅舎に 忽然に火起る
  四面一時に 其の焔倶に熾んなり
  棟梁椽柱 爆声震裂し
  摧折堕落し 墻壁崩れ倒る


(被焼之相)

 諸鬼神等 揚声大叫
 G鷲諸鳥 鳩槃荼等 周章惶怖 不能自出

  諸の鬼神等 声を揚げて大に叫ぶ
  ・鷲諸鳥 鳩槃荼等
  周・惶怖して 自ら出ずること能わず


◎色界火起

 悪獣毒虫 蔵竄孔穴 毘舎闍鬼 亦住其中
 薄福徳故 為火所逼 共相残害 飲血ツ肉
 野干之属 竝已前死 諸大悪獣 競来食ツ
 臭煙蓬ニ 四面充塞

  悪獣毒虫 孔穴に蔵竄し
  毘舎闍鬼 亦其の中に住せり
  福徳薄きが故に 火に逼まられ
  共に相残害して 血を飲み肉を・う
  野干の属 竝に已に前に死す
  諸の大悪獣 競い来って食・す
  臭煙蓬・して 四面に充塞す


◎無色界火起

 蜈蚣蚰蜒 毒蛇之類
 為火所焼 争走出穴 鳩槃荼鬼 随取而食
 又諸餓鬼 頭上火燃 飢渇熱悩 周章悶走

  蜈蚣蚰蜒 毒蛇の類
  火に焼かれ 争い走って穴を出ず
  鳩槃荼鬼 随い取って食う
  又諸の餓鬼 頭上に火燃え
  飢渇熱悩して 周・し悶走す


◎総結成三界衆難非一

 其宅如是 甚可怖畏 毒害火災 難衆非一

  其の宅是の如く 甚だ怖畏すべし
  毒害火災 衆難一に非ず


◎長者見火

 是時宅主 在門外立 聞有人言 汝諸子等
 先因遊戯 来入此宅 稚小無知 歓娯楽著
 長者聞已 驚入火宅

  是の時に宅主 門外に在って立って
  有人の言うを聞く 汝が諸子等
  先に遊戲せしに因って 此の宅に来入し


◎捨几用車 (捨几)

 方宜救済 令無焼害
 告諭諸子 説衆難患 悪鬼毒虫 災火蔓莚
 衆苦次第 相続不絶 毒蛇ク蝮 及諸夜叉
 鳩槃荼鬼 野干狐狗 G鷲鵄梟 百足之属
 飢渇悩急 甚可怖畏 此苦難処 況復大火
 諸子無知 雖聞父誨 猶故楽著 嬉戯不已

  稚小無知にして 歓娯楽著せり
  長者聞き已って 驚いて火宅に入る
  方に宜しく救済して 焼害なからしむべし
  諸子の告諭して 衆の患難を説く
  悪鬼毒虫 災火蔓莚なり
  衆苦次第に 相続して絶えず
  毒蛇・蝮 及び諸の夜叉
  鳩槃荼鬼 野干狐狗
  ・鷲鵄梟 百足の属
  飢渇の悩急にして 甚だ怖畏すべし
  此の苦すら処し難し 況んや復大火をや
  諸子知ることなければ 父の誨を聞くと雖も
  なお楽著して 嬉戲すること已まず


(用車)

 是時長者 而作是念 諸子如此 益我愁悩
 今此舎宅 無一可楽 而諸子等 ヌ湎嬉戯
 不受我教 将為火害 即便思惟 設諸方便
 告諸子等 我有種種 珍玩之具 妙宝好車
 羊車鹿車 大牛之車 今在門外 汝等出来
 吾為汝等 造作此車 随意所楽 可以遊戯
 諸子聞説 如此諸車 即時奔競 馳走而出
 到於空地 離諸難苦

  是の時に長者 而も是の念を作さく
  諸子此の如く 我が愁悩を益す
  今此の舎宅は 一の楽むべきなし
  而るに諸子等 嬉戲に・湎して
  我が教を受けず 将に火に害せられんとす
  即便思惟して 諸の方便を設けて
  諸子等に告ぐ 我種々の
  珍玩の具 妙宝の好車あり
  羊車鹿車 大牛の車なり
  今門外にあり 汝等出で来れ
  吾汝等が為に 此の車を造作せり
  意の所楽に随って 以て遊戲すべし
  諸子 此の如き諸の車を説くを聞いて
  即時に奔競し 馳走して出で
  空地に到って 諸の苦難を離る


◎等賜大車

 長者見子 得出火宅
 住於四衢 坐師子座 而自慶言 我今快楽
 此諸子等 生育甚難 愚小無知 而入険宅
 多諸毒虫 魑魅可畏 大火猛焔 四面倶起
 而此諸子 貧楽嬉戯 我已救之 令得脱難
 是故諸人 我今快楽

  長者子の 火宅を出ずることを得て
  四衢に住するを見て 師子の座に坐せり
  而して自ら慶んで言わく 我今快楽なり
  此の諸子等 生育すること甚だ難し
  愚小無知にして 険宅に入れり
  諸の毒虫 魑魅多くして畏るべし
  大火猛焔 四面より倶に起れり
  而るに此の諸子 嬉戲に貧楽せり
  我已に之を救うて 難を脱るることを得せしめつ
  是の故に諸人 我今快楽なり


(諸子索車)

 爾時諸子 知父安坐
 皆詣父所 而白父言 願賜我等 三種宝車
 如前所許 諸子出来 当以三車 随汝所欲
 今正是時 唯垂給与

  爾の時に諸子 父の安坐せるを知って
  皆父の所に詣でて 父に白して言さく
  願わくは我等に 三種の宝車を賜え
  前に許したもう所の如き 諸子出で来れ
  当に三車を以て 汝が所欲に随うべしと
  今正しく是れ時なり 唯給与を垂れたまえ


(等賜大車)

 長者大富 庫蔵衆多
 金銀瑠璃 ィゥ碼碯 以衆宝物 造諸大車
 荘校厳飾 周ー欄楯 四面懸鈴 金縄絞絡
 真珠羅網 張施其上 金華諸纓 処処垂下
 衆綵雑飾 周ー圍繞 柔軟嘱\ 以為茵蓐
 上妙細ネ 価直千億 鮮白浄潔 以覆其上
 有大白牛 肥壮多力 形体・好 以駕宝車
 多諸ノ従 而侍衛之 以是妙車 等賜諸子
 諸子是時 歓喜踊躍 乗是宝車 遊於四方
 嬉戯快楽 自在無碍

  長者大に富んで 庫蔵衆多なり
  金銀瑠璃 ・・碼碯あり
  衆の宝物を以て 諸の大車を造れり
  荘校厳飾し 周・して欄楯あり
  四面に鈴を懸け 金縄絞絡して
  真珠の羅網 其の上に張り施し
  金華の諸纓 処処に垂れ下せり
  衆綵雑飾し 周・圍繞せり
  柔軟の・・ 以て茵蓐と為し
  上妙の細・ 価直千億にして
  鮮白浄潔なる 以て其の上に覆えり
  大白牛あり 肥壮多力にして
  形体・好なり 以て宝車を駕せり
  諸の・従多くして 之を侍衛せり
  是の妙車を以て 等しく諸子に賜う
  諸子是の時 歓喜踊躍して
  是の宝車に乗って 四方に遊び
  嬉戲快楽して 自在無碍ならんが如し


◎合長者

 告舎利弗 我亦如是
 衆聖中尊 世間之父

  舎利弗に告ぐ 我も亦是の如し
  衆聖の中の尊 世間の父なり


◎合五百人

 一切衆生 皆是吾子
 深著世楽 無有慧心

  一切衆生は 皆是れ吾が子なり
  深く世楽に著して 慧心あることなし


◎合舎宅

 三界無安 猶如火宅

  三界は安きことなし 猶お火宅の如し


◎合火起

 衆苦充満 甚可怖畏 常有生老 病死憂患
 如是等火 熾然不息

  衆苦充満して 甚だ怖畏すべし
  常に生老 病死の憂患あり
  是の如き等の火 熾然として息まず

合譬


◎合見火

 如来已離 三界火宅
 寂然閑居 安処林野 今此三界 皆是我有
 其中衆生 悉是吾子 而今此処 多諸難患
 唯我一人 能為救護

  如来は已に 三界の火宅を離れて
  寂然として閑居し 林野に安処せり
  今此の三界は 皆是れ我が有なり
  其の中の衆生は 悉く是れ吾が子なり
  而も今此の処は 諸の患難多し
  唯我一人のみ 能く救護を為す


◎合捨几用車

 雖復教詔 而不信受
 於諸欲染 貧著深故 是以方便 為説三乗
 令諸衆生 知三界苦 開示演説 出世間道
 是諸子等 若心決定 具足三明 及六神通
 有得縁覚 不退菩薩

  復教詔すと雖も 而も信受せず
  諸の欲染に於て 貧著深きが故に
  是れを以て方便して 為に三乗を説き
  諸の衆生をして 三界の苦を知らしめ
  出世間の道を 開示演説す
  是の諸子等は 若し心決定しぬれば
  三明 及び六神通を具足し
  縁覚 不退の菩薩を得ることあり


◎等賜大車

 汝舎利弗 我為衆生
 以此譬喩 説一仏乗 汝等若能 信受是語
 一切皆当 得成仏道 是乗微妙 清浄第一
 於諸世間 為無有上 仏所悦可 一切衆生
 所応称讃 供養礼拝 無量億千 諸力解脱
 禅定智慧 及仏余法 得如是乗 令諸子等
 日夜劫数 常得遊戯 与諸菩薩 及声聞衆
 乗此宝乗 直至道場 以是因縁 十方諦求
 更無余乗 除仏方便

  汝舎利弗 我衆生の為に
  此の譬喩を以て 一仏乗を説く
  汝等若し能く 是の語を信受せば
  一切皆当に 仏道を成ずることを得べし
  是の乗は微妙にして 清浄第一なり
  諸の世間に於て 為めて上あることなし
  仏の悦可したもう所 一切衆生の
  称讃し 供養し礼拝すべき所なり
  無量億千の 諸力解脱
  禅定智慧 及び仏の余の法あり
  是の如き乗を得せしめて 諸子等をして
  日夜劫数に 常に遊戲することを得
  諸の菩薩 及び声聞衆と
  此の宝乗に乗じて 直に道場に至らしむ
  是の因縁を以て 十方に諦かに求むるに
  更に余乗なし 仏の方便をば除く


◎合長者無虚妄

 告舎利弗 汝諸人等
 皆是吾子 我則是父 汝等累劫 衆苦所焼
 我皆済抜 令出三界 我雖先説 汝等滅度
 但尽生死 而実不滅 今所応作 唯仏智慧
 若有菩薩 於是衆中 能一心聴 諸仏実法
 諸仏世尊 雖以方便 所化衆生 皆是菩薩
 若人小智 深著愛欲 為此等故 説於苦諦
 衆生心喜 得未曾有 仏説苦諦 真実無異
 若有衆生 不知苦本 深著苦因 不能暫捨
 為是等故 方便説道 諸苦所因 貪欲為本
 若滅貪欲 無所依止 滅尽諸苦 名第三諦
 為滅諦故 修行於道 離諸苦縛 名得解脱
 是人於何 而得解脱 但離虚妄 名為解脱
 其実未得 一切解脱 仏説是人 未実滅度
 斯人未得 無上道故 我意不欲 令至滅度
 我為法王 於法自在 安穏衆生 故現於世

  舎利弗に告ぐ 汝諸人等は
  皆是れ吾が子なり 我は則ち是れ父なり
  汝等累劫に 衆苦に焼かる
  我皆済抜して 三界を出でしむ
  我先に 汝等滅度すと説くと雖も
  但生死を尽くして 而も実には滅せず
  今作すべき所は 唯仏の智慧なり
  若し菩薩あらば 是の衆の中に於て
  能く一心に 諸仏の実法を聴け
  諸仏世尊は 方便を以てしたもうと雖も
  所化の衆生は 皆是れ菩薩なり
  若し人小智にして 深く愛欲に著せる
  此れ等を為ての故に 苦諦を説きたもう
  衆生心喜んで 未曾有なることを得
  仏の説きたもう苦諦は 真実にして異ることなし
  若し衆生あって 苦の本を知らず
  深く苦の因に著して 暫くも捨つること能わざる
  是れ等を為ての故に 方便して道を説きたもう
  諸苦の所因は 貪欲これ本なり
  若し貪欲を滅すれば 依止する所なし
  諸苦を滅尽するを 第三の諦と名く
  滅諦の為の故に 道を修行す
  諸の苦縛を離るるを 名けて解脱と為す
  是の人何に於てか 而も解脱を得る
  但虚妄を離るるを 解脱を得と名く
  其れ実には未だ 一切の解脱を得ず
  仏是の人は 未だ実に滅度せずと説きたもう
  斯の人未だ 無上道を得ざるが故に
  我が意にも 滅度に至らしめたりと欲わず
  我は為れ法王 法に於て自在なり
  衆生を安穏ならしめんが 故に世に現ず

勧進流通


◎標両章 (標可説不可説)

 汝舎利弗 我此法印 為欲利益 世間故説
 在所遊方 勿妄宣伝

  汝舎利弗 我が此の法印は
  世間を利益せんと 欲するを為ての故に説く
  所遊の方に在って 妄りに宣伝すること勿れ


◎釈 (釈可説不可説)

 若有聞者 随喜頂受
 当知是人 阿ハ跋致 若有信受 此経法者
 是人已曾 見過去仏 恭敬供養 亦聞是法
 若人有能 信汝所説 則為見我 亦見於汝
 及比丘僧 竝諸菩薩 斯法華経 為深智説
 浅識聞之 迷惑不解 一切声聞 及辟支仏
 於此教中 力所不及 汝舎利弗 尚於此経
 以信入得 況余声聞 其余声聞 信仏語故
 随順此経 非己智分

  若し聞くこと有る者 随喜し頂受せん
  当に知るべし是の人は 阿・跋致なり
  若し此の経法を 信受すること有らん者
  是の人は已に曾て 過去の仏を見たてまつりて
  恭敬供養し 亦是の法を聞くけるなり
  若し人能く 汝が所説を信ずること有らんは
  則ち為れ我を見 亦汝
  及び比丘僧 竝びに諸の菩薩を見るなり
  斯の法華経は 深智の為に説く
  浅識は之を聞いて 迷惑して解らず
  一切の声聞 及び辟支仏は
  此の教の中に於て 力及ばざる所なり
  汝舎利弗 尚お此の経に於ては
  信を以て入ることを得たり 況んや余の声聞をや
  其の余の声聞も 仏語を信ずるが故に
  此の経に随順す 己が智分に非ず


(釈可通不可通)

 又舎利弗 慢懈怠
 計我見者 莫説此経 凡夫浅識 深著五欲
 聞不能解 亦勿為説 若人不信 毀謗此経
 則断一切 世間仏種 或復顰蹙 而懐疑惑
 汝当聴説 此人罪報 若仏在世 若滅度後
 其有誹謗 如斯経典 見有読誦 書持経者
 軽賎憎嫉 而懐結恨 此人罪報 汝今復聴
 其人命終 入阿鼻獄

  又舎利弗 ・慢懈怠
  我見を計する者には 此の経を説くことなかれ
  凡夫の浅識 深く五欲に著せるは
  聞くとも解すること能わじ 亦為に説くことなかれ
  若し人信ぜずして 此の経を毀謗せば
  則ち一切世間の 仏種を断ぜん
  或は復・蹙して 疑惑を懐かん
  汝当に 此の人の罪報を説くを聴くべし
  若しは仏の在世 若しは滅度の後に
  其れ 斯の如き経典を誹謗することあらん
  経を読誦し書持すること あらん者を見て
  軽賎憎嫉して 結恨を懐かん
  此の人の罪報を 汝今復聴け
  其の人命終して 阿鼻獄に入らん

十四謗法

(1)慢(きょうまん) (2)懈怠 (3)計我見 (4)浅識 (5)著五欲
(6)不解 (7)不信 (8)毀謗 (9)顰蹙 (10)疑惑
(11)誹謗 (12)軽賎 (13)憎嫉 (14)結恨

 具足一劫 劫尽更生
 如是展転 至無数劫 従地獄出 当堕畜生
 若狗野干 其形ヒ痩 フヘ疥癩 人所触ホ
 又復為人 之所悪賎 常困飢渇 骨肉枯竭
 生受楚毒 死被瓦石 断仏種故 受斯罪報
 若作マ駝 或生驢中 身常負重 加諸杖捶
 但念水草 余無所知 謗斯経故 獲罪如是
 有作野干 来入聚落 身体疥癩 又無一目
 為諸童子 之所打擲 受諸苦痛 或時致死
 於此死已 更受蟒身 其形長大 五百由旬
 聾ミ無足 蜿転腹行 為諸小虫 之所ム食
 昼夜受苦 無有休息 謗斯経故 獲罪如是

  一劫を具足して 劫尽きなば更生れん
  是の如く展転して 無数劫に至らん
  地獄より出でては 当に畜生に堕つべし
  若し狗野干としては 其の形・痩し
  ・・疥癩にして 人に触・せられ
  又復人に 悪み賎まれん
  常に飢渇に困んで 骨肉枯竭せん
  生きては楚毒を受け 死しては瓦石を被らん
  仏種を断ずるが故に 斯の罪報を受けん
  若しは・駝と作り 或は驢の中に生れて
  身に常に重きを負い 諸の杖捶を加えられん
  但水草を念うて 余は知る所なけん
  斯の経を謗するが故に 罪を獲ること是の如し
  有は野干と作って 聚落に来入せば
  身体疥癩にして 又一目なからんに
  諸の童子に 打擲せられ
  諸の苦痛を受けて 或時は死を致さん
  此に於て死し已って 更に蟒身を受けん
  其の形長大にして 五百由旬ならん
  聾・無足にして ・転腹行し
  諸の小虫に ・食せられて
  昼夜に苦を受くるに 休息あることなけん
  斯の経を謗するが故に 罪を獲ること是の如し


(生賤人)

 若得為人 諸根暗鈍 メ陋モ躄 盲聾背傴
 有所説言 人不信受 口気常臭 鬼魅所著
 貧窮下賎 為人所使 多病ヤ痩 無所依怙
 雖親附人 人不在意 若有所得 尋復忘失
 若修医道 順方治病 更増他疾 或復致死
 若自有病 無人救療 設服良薬 而復増劇
 若他反逆 抄劫窃盗 如是等罪 横羅其殃

  若し人となることを得ては 諸根暗鈍にして
  ・陋・躄 盲聾背傴ならん
  言説する所あらんに 人信受せじ
  口に気常に臭く 鬼魅に著せられん
  貧窮下賎にして 人に使われ
  多病・痩にして 依怙する所なく
  人に親附すと雖も 人意に在かじ
  若し所得あらば 尋いで復忘失せん
  若し医道を修して 方に順じて病を治せば
  更に他の疾を増し 或は復死を致さん
  若し自ら病あらば 人の救療することなく
  設い良薬を服すとも 而も復増劇せん
  若しは他の反逆し 抄劫し窃盗せん
  是の如き等の罪 横まに其の殃に羅らん


(随悪永不値仏)

 如斯罪人 永不見仏 衆聖之王 説法教化

  斯の如き罪人は 永く仏
  衆聖の王の 説法教化したもうを見たてまつらじ


(復入悪道)

 如斯罪人 常生難所 狂聾心乱 永不聞法
 於無数劫 如恒河沙 生輒聾唖 諸根不具
 常処地獄 如遊園観 在余悪道 如己舎宅
 駝驢猪狗 是其行処 謗斯経故 罪獲如是

  斯の如き罪人は 常に難所に生れ
  狂聾心乱にして 永く法を聞かじ
  無数劫の 恒河沙の如きに於て
  生れては輒ち聾唖にして 諸根不具ならん
  常に地獄に処すること 園観に遊ぶが如く
  余の悪道に在ること 己が舎宅の如く
  駝驢猪狗 是れ其の行処ならん
  斯の経を謗するが故に 罪を獲ること是の如し


(復得為人)

 若得為人 聾盲ユ唖 貧窮諸衰 以自荘厳
 水腫乾ヤ 疥癩癰疽 如是等病 以為衣服
 身常臭処 垢穢不浄 深著我見 増益瞋恚
 淫欲熾盛 不択禽獣 謗斯経故 罪獲如是
 告舎利弗 謗斯経者 若説其罪 窮劫不尽
 以是因縁 我故語汝 無智人中 莫説此経

  若し人と為ることを得ては 聾盲・唖にして
  貧窮諸衰 以て自ら荘厳し
  水腫乾・ 疥癩癰疽
  是の如き等の病 以て衣服と為ん
  身常に臭きに処して 垢穢不浄に
  深く我見に著して 瞋恚を増益し
  淫欲熾盛にして 禽獣を択ばじ
  斯の経を謗ずるが故に 罪を獲ること是の如し
  舎利弗に告ぐ 斯の経を謗せん者
  若し其の罪を説かんに 劫を窮むとも尽きじ
  是の因縁を以て 我故に汝に語る
  無智の人の中にして 此の経を説くことなかれ


(次明若大慈為善人説)(過現一変)

 若有利根 智慧明了 多聞強識 求仏道者
 如是之人 乃可為説 若人曾見 億百千仏
 植諸善本 深心堅固 如是之人 乃可為説

  若し利根にして 智慧明了に
  多聞強識にして 仏道を求むる者あらん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし
  若し人曾て 億百千の仏を見たてまつりて
  諸の善本を植え 深心堅固ならん
  是の如き人に 乃ち為に説くべし


(上下一変)

 若人精進 常修慈心 不惜身命 乃可為説
 若人恭敬 無有異心 離諸凡愚 独処山沢
 如是之人 乃可為説

  若し人精進して 常に慈心を修し
  身命を惜まざらんに 乃ち為に説くべし
  若し人恭敬して 異心あることなく
  諸の凡愚を離れて 独山沢に処せん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし


(内外一変)

 又舎利弗 若見有人
 捨悪知識 親近善友 如是之人 乃可為説
 若見仏子 持戒清潔 如浄明珠 求大乗経
 如是之人 乃可為説

  又舎利弗 若し人あって
  悪知識を捨てて 善友に親近するを見ん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし
  若し仏子の 持戒清潔なること
  浄明珠の如くにして 大乗経を求むるを見ん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし


(自他一変)

 若人無瞋 質直柔軟
 常愍一切 恭敬諸仏 如是之人 乃可為説
 復有仏子 於大衆中 以清浄心 種種因縁
 譬喩言辞 説法無碍 如是之人 乃可為説

  若し人瞋なく 質直柔軟にして
  常に一切を愍み 諸仏を恭敬せん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし
  復仏子 大衆の中に於て
  清浄の心を以て 種々の因縁
  譬喩言辞をもって 説法すること無碍なるあらん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし


(始終一変)

 若有比丘 為一切智 四方求法 合掌頂受
 但楽受持 大乗経典 乃至不受 余経一偈
 如是之人 乃可為説 如人至心 求仏舎利
 如是求経 得已頂受 其人不復 志求余経
 亦未曾念 外道典籍 如是之人 乃可為説

  若し比丘の 一切智の為に
  四方に法を求めて 合掌し頂受し
  但楽って 大乗経典を受持して
  乃至 余経の一偈をも受けざるあらん
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし
  人の至心に 仏舎利を求むるが如く
  是の如く経を求め 得已って頂受せん
  其の人復 余経を志求せず
  亦未だ曾て 外道の典籍を念ぜじ
  是の如きの人に 乃ち為に説くべし


(総結可説)

 告舎利弗 我説是相 求仏道者 窮劫不尽
 如是等人 則能信解 汝当為説 妙法華経


  舎利弗に告ぐ 我是の相にして
  仏道を求むる者を説かんに 劫を窮むとも尽きじ
  是の如き等の人は 則ち能く信解せん
  汝当に為に 妙法華経を説くべし

 

 


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