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はじめに思想背景折伏の本来の意味上行菩薩としての日蓮聖人中古天台密教の影響
京都での教団繁栄 | 教団の
受難神祇勧請と木釼修法本山日蓮宗の仏事宗派門派

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日 蓮

密教と中古天台

 

●日蓮聖人の密教観の変遷
 
御遺文、時期 日蓮聖人の年齢 日蓮聖人の所見
『戒体即身成仏義』 21歳 密教は仏教の中で最高の教え
『守護国家論』 38歳 法華真言を共に正法
『教機時国鈔』 41歳 空海批判
『善無畏鈔』 46歳 中国密教批判
『開目抄』 51歳 慈覚大師(円仁)等の真言勝れたりとおほせられぬれば、
なんどをもえるはいうにかいなき事なり
身延期 53〜61歳 天台密教の批判

●中古天台本覚思想と日蓮聖人

「本覚」「無作」という言葉は中古天台本覚思想を語るうえで不可欠な用語である。しかし、日蓮聖人の御妙判(御遺文)を検索してみると次の事実が明らかとなる。


・「本覚」「無作」といった用語が使われている御妙判は、真跡や真跡曽存といった信頼しうるものが皆無に等しい。

・「本覚」「無作」といった用語のある御妙判には、偽書やその疑いのある不確かなものが多い。

・「本覚」「無作」といった用語は『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』『開目鈔』『立正安国論』『撰時抄』『報恩抄』といった、日蓮聖人の「三大部」や「五大部」といわれる代表作には出現しない。
 

 これは日蓮聖人における中古天台本覚思想を考察する上で大きな手掛りとなろう。下記の表を参照して頂きたい。
 

日蓮聖人御妙判にみる本覚論用語出現数

御妙判名称




出現回数
(該当単語)
真 跡


備  考
無作 本覚
諸宗問答鈔
三種教相
十如是事
一念三千法門
十法界事
今此三界合文
聖愚問答鈔
生死一大事血脈鈔
八宗派異目鈔
義浄房御書
当体義鈔※2
授職潅頂口伝鈔
教行証御書
阿仏房御書
大白牛車書
三世諸仏総勘文教相廃立
一八円満鈔
妙一尼御返事
三大秘法禀承事
持妙法華問答鈔
御義口伝
御講聞書
34
36
37
37
38
39
44
51
51
52
52
53
54
55
56
58
59
59
60


 











11








45















31




12
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
京都妙顕寺
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし

なし
なし
なし
なし(日持)
なし(日興)
なし(日向)





















 
建長7年で真言批判は異例

※1
偽書論あり※1


古来偽書説あり
疑義論あり


古来より真偽問題
偽書説あり



中古天台そのものの内容
偽書説あり

真偽両論あり
伝日持代作
伝日興記 偽書 ※3
伝日向記 偽書説あり

※1恵心僧都の『法華即身成仏要記』の翻案的内容(執行海秀)
※2『当体義鈔』の当体蓮華義は、中古天台の観心的色彩の強いものであり、『法華玄義』のものではない。(日蓮聖人遺文辞典P799)
※3執行海秀『御義口伝の研究』で偽書と断定されている

 中古天台本覚思想に影響された後代の日蓮系僧侶は次の事項にもあげる偽書を撰述したようである。そもそも、本家である天台宗の中古天台本覚思想そのものに偽書がある。偽書を作成することに躊躇はおこらなかったと思われる。また、密教の影響を受けていて相伝も密室の口伝や切り紙による秘密相承がなされていたようである。あるいは、一子相承といって信頼できる弟子一人だけに奥義を相伝する。これはインドのウッパニシャッドの哲人の相承形態である。本来の仏教ではありえず、ヒンズー教と習合した密教的な相承形態ではないだろうか。晩年、密教を批判された日蓮聖人が密教的な教義や相伝をされるとは考えられず、六老僧という6大弟子を定められた日蓮聖人が一子相承をされるはずがない。

 こういった秘密裏の怪しげな相伝と、日蓮聖人の教義との間に差異が生じて、その埋め合わせが中古天台本覚論的な偽書の発生理由であろう。

偽書

 教義という形が時代とともに変化して行くのは、諸行無常ということからも致し方ないことだろう。問題は、その展開してしまった教義を正統化するために、その根拠となる日蓮聖人の遺文(御妙判・祖書・祖判)を偽作することである。他門流との対論の根拠として、あるいは門流内の伝承を秘密裏に相伝するために日蓮聖人に仮託した偽書が作成された。

 現在、あまりにもたくさんの偽書が存在するために、学術的な論文や発表には引用する日蓮聖人遺文が日蓮聖人撰述として信頼できるものを用いなければならないし、その確度についての言及もしばしばなされる。また、布教現場においても不確かな日蓮聖人遺文を用いないようにする気運も盛り上がってきた。

真撰か偽書かの判断方法

真跡遺文・真跡曽存遺文

 現在まで日蓮聖人真筆の御遺文が残っているもの、あるいはかつて存在したのが確実な遺文は真撰としてほぼ間違いないと考えられる。しかし、なかには断片のみ伝わって、完全な形では伝わっていないものもある。その失われた部分は古来の写本を参照することになるのであるが、この部分が疑わしいものもあるそうだ。また、真筆遺文に後代の先師による加筆と思われるものもある。

録内・録外

 録内御書の方が一般に真撰が多いとされる。録内にも偽書があり、録外にも真撰があるので一概にはいえないが、一つの目安となる。

引用の有無

 鎌倉期や室町期の論文に引用されていない御遺文は、真撰なのかどうか注意深くあつかわなくてはならない。

五大部との比較

 『立正安国論』『開目抄』『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』『撰時抄』『報恩抄』が日蓮聖人の代表作である。これらにないことが書かれていたり、反対のことが書かれている御遺文は注意が必要である。現在でもこのことに無頓着な日蓮系僧俗が多い。

時期による変遷

 例えば、日蓮聖人の密教感は当初は肯定的立場であったが、後には否定的立場となる。御遺文の日付の時期と、そのころの日蓮聖人の思想とを検証することで遺文の信頼性判断の一助となることがある。